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カスハラ対策は何のため?

1 はじめに

 最近、企業向けに、「カスハラ」(カスタマーハラスメント)防止のための対応サポート、講習についての広告などが目に付くようになりました。

 

 なんとなく、「カスハラ対策しなければ」と思っている経営者は多いと思います。

 法制化の動きもあり、これに対応するべきなのは間違いありませんが、では、いったい何のためにカスハラ対策をするのでしょうか?

 

 クレームをつけてくる顧客はうっとうしいから、「カスハラ対策」をして黙らせる。そうすると気持ちいい。「お客様は神様」の時代は終わったから、これでいいのだ。

 これがカスハラ対策の目的でしょうか。

 

 少し考えると、企業活動において、クレームを抑え込むことが事業の成功につながるわけではないことはすぐわかります。顧客から適切なフィードバックを受けることがサービス向上にとって貴重であることは疑う余地がないでしょう。

 なので、カスハラ対策の目的は、こういうことではないわけです。

 

 カスハラ対策の目的というのは、企業の業態(客層。物の販売か、継続的サービスか。病院・旅館などの公的な役割の有無など)によっても重点が変わります。

 

 ただ、一般論として整理すると、2つの面で、すなわち、「従業員を守るため」と「顧客により良いサービスを提供するため」と考えることができます。

 

2 従業員のため

 「従業員を守るため」という観点について説明します。

 カスハラの定義は、一般に、

 

 顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの

 

  厚生労働省「カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル」より

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf

 

とされます。

 一見ややこしい表現ですが、下線部「労働者の就業環境が害される」という点がポイントです。

 従業員が、顧客から理不尽に非難され続けたりすれば、メンタル不調をきたす恐れがあります。

 それは職場環境、労働環境が安全ではない、ということになりますから、経営者はそうならないように従業員を守らなければならない、ということです。

 

 従業員が、対応すべきクレームなのか、理不尽な要求(カスハラ)なのか区別できるようにする。

 従業員が対応すべきでない場合には、適切に、他の責任者にバトンタッチできる、必要に応じて弁護士等の専門家に相談したり、法的な措置をとることができるようにする。

 こうして、安全な職場をつくりましょう、ということです。

 

3 顧客のため

 もう一つは、「顧客により良いサービスを提供するため」という観点です。

 

 企業で働く人の力は限られたリソース(資源)です。

 

 たとえば、長時間の繰り返しの叱責などにスタッフがさらされ続けると、その時間に有益なことができなくなってしまいますし、また、心身共に削られることになります。

 

 顧客のクレームを封じ込めるというのではなく、クレームを伝える適切な方法について顧客に理解を促す工夫(広報をするほかに、技術的にも、問い合わせチャットなどの活用により、顧客を待たせて「イライラ」させない工夫もあります)をして、顧客と企業との良い関係を作り、カスハラになりにくい状態を作っていく必要があります。

 そうして、企業で働く人が顧客のために本来前向きに力を尽くしたいこと、つまり、良い製品やサービスを産み出すことや、顧客の立場を豊かに想像して心のこもった接客をすることに力を注げる余力を確保するということです。

 

 そうすれば「カスハラ対策」の効果を、顧客に還元できることになります。

 顧客と企業との「分断」ではなく「相互理解」、さらには「対話」により新しいサービスの形をつくっていくことができれば理想です。

 本当の意味で顧客を大切にする、そういう「カスハラ対策」と位置付けることができます。

 

4 まとめ

 せっかく「カスハラ対策」を行うのであれば、なんとなく時代の流れだから、というだけではなく、それぞれの企業において「何のために」行うのかを見定めて行うことをお勧めします。

 

 また、本文で述べた通り、「カスハラ対策」は、顧客サービスを削減するということではなく、むしろ顧客サービスの充実のためと位置付けることができます。

 

 そして、企業が無理しない、従業員に無理をさせないことが大切です。

 

 当事務所でも顧問先企業を中心に、カスハラ対策、「無理しない」「無理させない」職場づくりという観点での企業サポートも提供しています。必要を感じられる方は、お気軽にお尋ねください。

 

 本コラムが、よりよい企業活動、職場づくりに役立てば幸いです。