お知らせ
必須になるカスタマーハラスメント対策について~改正法10月施行
1 はじめに
令和8年10月1日に、改正された労働施策総合推進法(正式名称「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律」)が施行されます。
この改正によって、カスタマーハラスメント(カスハラ)の防止措置がすべての事業主の義務になります。
この記事では、事業主がどのような対策を行ったらよいのかを法律と厚労省の指針に基づいて、出来るだけわかりやすく説明します。
なお、このテーマのインターネット上の解説記事は多いのですが、法律の名称・条文や、厚労省の指針についての引用がないものが目立ちます。
法律情報の解説記事では、本来は根拠となる法律の条文や国の指針などを正確に引用することが重要です(文献などは通常そうなっています)。そうでないと、読者が確かな一次情報にあたることがしにくく、また、書き手もあやふやな根拠で書いてしまうことになりがちだからです。
特に、AI時代においては、AIはインターネット上の記事を拾ってくるので、その記事に条文の引用等が欠けているとAIがまとめる情報も根拠を欠いたものになる弊害もあり、ハルシネーションのもとにもなります。
そこで、この記事においては、意識的に、いわばトラディショナルなやり方で、条文を丁寧に引きながら、それでいて分かりやすい解説に努めたいと思います。
2 改正法
⑴ 法律はこれです
労働施策総合推進法(令和8年10月1日施行)
⑵ 事業主の責務
最も重要な条文は、この法律の33条1項です。
(職場における顧客等の言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
第33条1項
事業主は、職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者(次条第五項において「顧客等」という。)の言動であつて、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたもの(以下この項及び次条第一項において「顧客等言動」という。)により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、労働者の就業環境を害する当該顧客等言動への対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
まず、「カスタマーハラスメント」(カスハラ)の定義として、
① 顧客等の言動であって
② 労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより
③ 労働者の就業環境が害されるもの
という3つの要件が定められ(これを全て満たすものがカスハラ)、これを防止すべき必要な措置をとることが事業主の責務とされます。
⑶ 国の指針
そして、労働施策総合推進法33条4項で事業主のとるべき措置について、国が具体的な指針を定めることとされています。
第33条4項
厚生労働大臣は、前三項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。
この条文に基づき、「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示51号。いわゆる「カスタマーハラスメント防止指針」)が定められています。
この指針は極めて重要ですので、次の項で解説します。
3 カスタマーハラスメント防止指針
⑴ 指針
⑵ カスハラの内容~何がカスハラにあたるか
上記2⑵で述べた3つの要件ごとに、具体的に基準が示されています。
① 「顧客等」の言動
ここでいう「顧客等」には、顧客そのもののほかに、取引先の担当者、施設の近隣住民なども含まれるとされます。
② 社会通念上許容される範囲を超えたもの
特に具体的に例が示されています。
イ 言動の内容が社会通念上許容される範囲を超えるもの
① そもそも要求に理由がない又は商品・サービス等と全く関係のない要求
・性的な要求や、労働者のプライバシーに関わる要求をすること。
② 契約等により想定しているサービスを著しく超える要求
・契約内容を著しく超えたサービスの提供を要求すること。
③ 対応が著しく困難な又は対応が不可能な要求
・契約金額の著しい減額の要求をすること。
④ 不当な損害賠償要求
・商品やサービス等の内容と無関係である不当な損害賠償要求をすること。
ロ 手段や態様が社会通念上許容される範囲を超えるもの
① 身体的な攻撃(暴行、傷害等)
・殴る、蹴る、叩く等の暴行を行うこと。
・物を投げつけること。
・わざとぶつかること。
・つばを吐きかけること。
② 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等)
・店舗の物を壊すことをほのめかす発言やSNS等のインターネット上へ悪評を投稿することをほのめかす発言によって労働者を脅すこと。
・SNS等のインターネット上へ労働者のプライバシーに係る情報の投稿等をすること。
・労働者の人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する侮辱的な言動を行うことを含む。
・土下座を強要すること。
・盗撮や無断での撮影をすること。
・労働者の性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の者に暴露すること又は当該労働者が開示することを強要する若しくは禁止すること。
③ 威圧的な言動
・大きな声をあげて労働者や周囲を威圧すること。
・反社会的な言動を行うこと。
④ 継続的、執拗な言動
・同様の質問を執拗に繰り返すこと。
・当初の話からのすり替え、揚げ足取り、執拗な責め立てをすること。
・同様の電子メール等を執拗に繰り返し送りつけること。
⑤ 拘束的な言動(不退去、居座り、監禁)
・長時間に渡る居座りや電話で労働者を拘束すること。
③ 労働者の就業環境が害されるもの
平均的な労働者の感じ方を基準とすることなど。
⑶ 事業主の講ずべき措置の内容
次の4点(+α)が定められています。
① 事業主の方針等の明確化および周知・啓発
事業主(会社等)としての「方針」を策定し、周知することになります。
カスハラに対する対処方法等を具体例を挙げるなどして示す必要があります。
たとえば、
・「可能な限り労働者を一人で対応させないこと」
・「繰り返しの要求が続く場合には、一定の時間の経過をもって退店を求めたり、電話を切ったりすること」
・「現場対応が困難な場合においては、本社・本部等へ情報共有を行い、指示を仰ぐこと」
といった内容です。
② 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
カスハラについての労働者が相談できる窓口を定めて、労働者に周知しなければなりません。
また、その相談窓口の担当者が、相談者のプライバシーを守ることなど含めて、適切に対応できるようにしておく必要があります。
③ 職場におけるカスタマーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
相談があった場合に、
・事実関係を迅速かつ正確に確認し
・被害者に対する配慮のための措置を適正に行い
・再発防止に向けた措置を講じる
ことが必要です。
これらについて、指針は詳しく具体例を示しています。
④ 職場におけるカスタマーハラスメントへの対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置
特に悪質なカスハラに対して、警察への通報、出入りの禁止、法的処置なども含めた対処方針を定め、周知して、実際にそのような対処が行えるように体制を整備する必要があります。
⑤ あわせて講ずべき措置
相談者のプライバシーの保護や、カスハラ相談をしたために不利益な取扱いをされない旨の周知などをすべきとされています。
⑷ 事業主が行うことが望ましい取組等
カスハラの原因や背景となる要因を解消するための取組として、
・接客、自社の商品・サービス、苦情への対応等の研修
・顧客等への理解を深めるための研修(消費者心理、障害特性等)
を行うことが望ましいとされています。
4 法改正に対する対応全般
10月からの改正法施行に向けて、何をしなければならないか、というのは、基本的に上記の国の指針に具体的に書かれているとおりです。
すでにパワハラ対応の体制が整備されているならば、その体制を基礎に、カスハラ対応を付け加えることで対応できる部分は多いです。
ただ、カスハラは外部との関係になるため、パワハラ対応の延長線ではない部分もあります(悪質な場合の警察への通報など)。
当事務所では、以前から、企業等における、カスハラ対応の方針づくり、相談体制、具体的な事案に対する対応についてサポートさせていただいています。
顧客対応のご相談は年々増えており、特に、学校、塾、病院、入所施設その他の継続的なサービスを提供される業種の場合には、事業主にとってかなり頭の痛い問題になることがよくあります。
また、上記のとおり、顧客対応で苦労する場合には、それにあたる担当者の就業環境の問題になることが多く、早期からの適切な対処が欠かせません。
カスハラ対応の方針・体制づくり、顧客対応について、いずれでも、ご相談事があればいつでもお問い合わせください。