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「算定表」で解決しない婚費・養育費①~表の上限を超える収入の場合

1 はじめに

 離婚の案件について、別居中の生活費(婚姻費用)、離婚後の養育費については、家庭裁判所の「算定表」により「相場」があることは、現在では広く知られています。

 この「算定表」方式は大変優れたものです。

 平成15年に「(旧)算定表」ができる以前は、毎月のお金の話なのに、夫婦それぞれが生活にかかる収支を細かく資料付きで提出して、その一つ一つについて必要か否かなどを細かくやりあわなければ、婚姻費用や養育費の額が決まりませんでした。これに1年以上時間を要することがしょっちゅうでした。

 「算定表」ができたのでこの夫婦の収入であればおよそ〇円くらい、という予測が可能になり、調停などの実務でも、離婚本体については時間がかかっても、婚姻費用や養育費については比較的早期に「月額〇円」と合意ができることが多くなりました。

 平成30年に今の社会実態に合わせて基準が改訂され「(新)算定表」ができて、現在運用されています。

 https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html

 このように「算定表」は大変便利なものですが、ただ、実際には、「算定表」だけでは解決しないケースもあります。

 たとえば、今回取り上げる、収入が表の上限(給与所得であれば2000万円)を超える場合のほか、私学の学費がある場合、住宅ローンの支払の問題がある場合などが挙げられます。

 そういった「算定表」だけで解決しないケースの扱いについては、複数の見解があるものが多いのですが、調停・審判などの実務における考え方を中心に、そもそも「婚姻費用」「養育費」とは何のためにあるのか?という問いとともに私なりの説明をしてみたいと思います。

 

2 表の上限を超える場合とは

 「算定表」の上限は、支払義務者(たとえば、母子が家を出て、父に婚姻費用を請求する場合の父のことです。)の年収が、給与収入2000万円または自営収入1567万円というラインです。

 これを超える収入がある場合はどうすればよいか?「算定表」では欄外になってしまうので、それが問題です。

 実務では、婚姻費用と養育費で異なる取扱いをする方法が有力なので、分けて解説します。

 

3 婚姻費用

 ⑴ 婚姻費用とは

  別居~離婚成立までの生活費です。

  その中身は、「妻の生活費」と「子どもの生活費(養育費相当)」をあわせたものです。

 ⑵ 複数の考え方

  おおよそ次のような複数の考え方が示されています。

  ア 算定表の最高額を上限とする方法(「上限頭打ち」)

  イ 基礎収入の割合を修正する方法(算定表と共通の考え方だが修正を加える)

  ウ 貯蓄率を控除する等の修正をする方法(算定表と共通の考え方だが修正を加える)

  エ 同居中の生活レベル等から算定する方法

 ⑶ そもそも「算定表」の考え方とは

  「算定表」は、数字を示した表になっているので、双方の収入が分かれば、たとえば、月額「6~8万円」であるという「答え」が直接書かれています。

  そうなのですが、どういう考え方でこの数字が導き出されているのか?というのがこの点です。

  それは「標準算定方式」といって、次のようなものです。

  ① まず、双方の「実際の収入」から、公租公課(税金など)、職業費、特別経費を除いた「基礎収入」を出します。

    これは、給与・自営収入の金額に応じて統計的に「〇〇%」として簡易に計算します。

  ② その両者の基礎収入の合計を、家族のメンバーの生活費指数で割り付けます。

    単純にいえば「頭割り」なのですが、実際には大人と子ども、さらに子どもの年齢によって区別し、

     大人       100 

     子ども0~14歳  62

     子ども15歳~   85

    として、生活費を割り付けることになります。

  ③ 以上の考え方で、生活費の分担、婚姻費用の支払額を決めることになります。

 根本的な考え方は、別居していても、家族は「同一の生活水準を維持する」という考え方に立っています。

 高額の所得者が、別居中の家族に生活費を渡すとき、「何とか食べていける生活費を渡しさえずればよいだろう。残りは自分の手元に置いておこう。」というわけにはいかない、ということです。

 ⑷ 上限を超える場合の扱いについて

 別居中の婚姻費用については、基本的には上記⑶と同じ考え方をします。

 なので「算定表」では欄外になっているのですが、その「延長」という考え方で算定するということになります。欄外に表を付け足していくイメージです。

 その意味で、⑵ア算定表の「上限頭打ち」という考え方は主流ではありません。

 ただ、収入が何千万円単位ということになると、貯蓄に回す率が高くなることなどを考慮して、「算定表」の単なる延長というよりは計算の修正(⑵イ、ウの考え方)を行います。

 ごく単純化して言えば、義務者の給与収入が4000万円だったとして、2000万円の義務者の場合の倍の婚姻費用がもらえるわけではない(それよりは低額になる)ということになります。もっとも、「それよりは低額」といっても、算定表の上限を上回りますから、一般的には高額の婚姻費用の支払になります。

 金額にして、月額50万円以上になることもあります。

 ここで、「生活にそんなにお金が必要なのか?」という問いはあり得ます。この問いの問題意識は「上限頭打ち」説に近いのですが、上記⑶で述べたとおり、家族は「同一の生活水準を維持する」という考え方からすれば、義務者が高額の所得を得ている場合はそれを「家族全体でシェアする」ことになり、その結果として、それに見合う婚姻費用を支払うことになります。

 それでも億単位の収入の人となると、特殊で、さすがに上記⑶の考え方自体がそのまま当てはめるのも無理があることになるので、これは個別に考えていくしかない(⑵エ 同居中の生活レベル等から算出)ということになります。

 ⑸ 具体的にどう計算するかはケースバイケース

 おおよそ上記⑷ということになるのですが、「算定表」がそのまま使えないケースは、やはり、その事案個別の要素が強いのです。

 高額所得者の場合には、生活スタイルや子の就学状況なども特殊性が多いので、パターン化が困難です。

 従って、「算定表」のような簡単な基準が使えないし、裁判例(審判例)があってもそのまま他人の事案に当てはまるということも稀です。

 裁判例は参考にしつつも、何がその事案と共通して、何が違うのか、分かって使わなければなりません。

 そんな状況ですので、ChatGPTなどの生成AIに聞いても、確かな答えは得られません。あなたのケースにぴったりくる答えがネット上に書かれているわけではないからです。

 この点で、「算定表」が使えない事案は、弁護士が、実際の具体的な生活状況や家族の在り方(場合によっては考え方も)を丁寧に聴き取って、最も適切な算出方法を考えるしかありません。必要に応じて、審判例などを説得的に引用することもあります。

 

4 養育費

 ⑴ 養育費とは

 離婚後の子の養育にかかる費用についての分担金です。

 養育費の要素としては、主に生活費、学費です。

 関連してよく問題になるのは、養育費の終期(何歳までか?)、また、学費について私学の学費や大学の学費はどうなるのか?です。これも極めて重要な問題点で、個別のケースにおける、子の就学状況に合わせた解決をする必要があります。

 学費については、養育費の月額とは「別建て」で義務者の負担とする例もよくあります。

 ⑵ 考え方と実務的運用

 婚姻費用と同じように、次の考え方がありえます。

 ただ、実務は、養育費について、婚姻費用と異なる考え方で進められることが多いです。具体的には、基本的にア「上限頭打ち」説であり、学費等は個別事情に応じて義務者に別途負担させることで調整を図るという取扱いが主流です。この取扱いがよいのかどうかについては後で解説を加えます。

   ア 算定表の最高額を上限とする方法(「上限頭打ち」)

   イ 基礎収入の割合を修正する方法(算定表と共通の考え方だが修正を加える)

   ウ 貯蓄率を控除する等の修正をする方法(算定表と共通の考え方だが修正を加える)

   エ 同居中の生活レベル等から算定する方法

 ⑶ そもそもの「算定表」の考え方は、婚姻費用と同じ

 養育費についても、婚姻費用と全く同じスタイルの「算定表」になっており、結論の数字が変わるだけです。

 この数字が導き出される考え方は、婚姻費用の場合(上記3⑶の場合)と同じです。

 もと夫婦(父母)の実際の収入から、分担の基礎になる基礎収入を算出し、それを生活費指数で割り付けるという考え方です。やはり、親子は同一の生活水準を維持する(父母が離婚しても)という基本の考え方があります。

 ただ、「上限頭打ち」説は、3000万円の給与収入の義務者であっても、2000万円の給与収入の義務者と同じ金額にしかならないので、この基本的考え方はその意味で修正(限定)されることになります。

 ⑷ 上限を超える場合の扱いについて

 既に⑵でも紹介しました。

 ここでは婚姻費用と違って、「上限頭打ち」説が実務の主流です。

 その理由は、「生活費としての養育費、監護費用については、義務者が高額所得者であるからと言ってその収入に対応して無制限に増加するというものではない」等と説明されます。そして、海外留学等の特別な事情があれば別途考慮することもできるとされます。

 つまり、上限(給与であれば2000万円)の場合の養育費額を一応のマックスとして、プラスαは高額な学費(海外留学、私立学校)を別途負担させることで妥当な解決を図るというものです。

 この実務の取扱いを前提にするならば、プラスα部分でできる限り個別の事情を正確に反映させていく、という点がポイントで、ここが当事者や代理人弁護士の注力すべき点ということになります。

 ただ、そもそもの考え方としては、次の問題点が指摘できます。

  ① 算定表の上限(給与2000万円)を「頭打ち」とする根拠がないこと

 たまたま算定表がこのラインを上限にしていますが、上限が給与2000万円であることに必然性はありません。

 便宜的にここで線を引く、ということになりますが、そうでないといけない根拠は弱いといえます。

  ② 親子が同一の生活水準を維持するという基本的考え方との矛盾

 もともと算定表の範囲内の養育費を定めるときの考え方は、離婚後も、親子が同一の生活水準を維持するという考え方に基づきました。

 であるのに、なぜ、算定表の上限を超えたときには、この考え方よりも子の生活費は「義務者が高額所得者であるからと言って無制限に増加するものではない」という考え方が優先されるのか、この点が一貫しないという批判がなされます。

  ③ 婚姻費用の扱いとの不整合

 婚姻費用は、子の生活費・学費等の部分と、一方の配偶者の生活費部分とからなります。

 子の生活費・学費等の部分について、婚姻費用と養育費とは重なり合う性質のものです。

 そうであるのに、婚姻費用の場合は上限「頭打ち」ではなく、養育費となると上限「頭打ち」になるということは理論的には整合する説明が難しいように思われます。

 つまり、子の生活費・学費等への一方の親の負担額について、「別居中離婚前」と「離婚後」で急に変わり、上限が設けられる、ということについて、実質的に理由があるのか、という疑問です。

 夫婦は、元々は家族ではなかった者が婚姻して家族になり、別離してしまえば家族でなくなりますが、親子は親の離婚の有無にかかわらず親子であり続けます。

 そうであるのに、親の離婚を境に、子の生活費・学費等への負担額(養育費額)に「上限」が生じる、ということについての不自然さは否めないように思います。

 ⑸ 具体的な解決方法

 上記⑷のとおり、実務のなかで養育費については、婚姻費用と違って「上限頭打ち説」が有力であるということからすれば、実際的には、「月○○万円支払う」という部分の他のプラスαを事案に応じて適切に決めていくよう務める、ということが多くなるでしょう。

 つまり、私学や大学・大学院等の学費や留学費用などの分担の点を、しっかり話し合うことです。

 一方で、離婚が解決した後も、各種費用が生じるたびに連絡や協議を行うことが煩雑であり、互いに一定額で線を引きたいというニーズがある場合もあるかも知れません。

その場合は、「上限頭打ち」にこだわらず、上限を超える一定水準で「月○○万円支払う」として、そこに高額の教育費等も含む、という決め方もあり得ると思います。

 

5 まとめ

 以上、離婚事件に関係して、収入が多く、婚姻費用・算定表の上限を超えるケースについて解説しました。

 これはそもそも夫婦のどちらかに高額の収入がある場合の話ですから、見方によっては、別居中の生活や子どもの養育といっても、どうしても必要な金額には限度があり、片方の配偶者が高額所得者だからといって、それほど高額な婚姻費用・養育費を認めなくても良いのではないか、という物の見方もあるでしょう。

 ただ、実際には、別居前・婚姻前の生活の在り方があり、特に、子どもはもともとの環境(教育環境、人間関係含め)の中で育ち、継続的に大人になるまで成長していこうとしているわけです。離婚という出来事があっても、親が、そうした家族の歴史を踏まえて、子どもが不足なく生育できるように責務を果たしていかなければなりません。

 そうしたときに、婚姻費用・養育費としてどのような金額が妥当か。

「算定表」に収まらず、明確な一つの解がない領域だけに、そもそも、婚姻費用・養育費とは何か?家族・親子の生活扶助義務とは何か?という本質から考えて、そのケースに合った解決を丁寧に探る必要があります。

                                                            神戸むらかみ法律事務所 弁護士 村上英樹