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コロナ・ウクライナ情勢による原材料高騰 と 下請法  ~原材料高騰による値上げを拒否することが違法になる場合も~

1 はじめに

 現在、コロナ禍における物流の停滞や、ウクライナ情勢によるエネルギーコストの上昇、さらには、円安によって、原材料の高騰が企業間の取引に大きな影響を与えています。

 そんな中、下請業務について、原材料は高騰しているのに親事業者が値上げを認めてくれない、という相談も多く寄せられています。

 この原材料が高騰しているのに親事業者が値上げを認めない、というケースは、下請法に違反する恐れがあります。

 下請事業者の立場では、自社のビジネスを守るために、以下に説明する法やガイドラインの内容を知ったうえで、必要なアクションを起こすべきです。

 一方、親事業者の立場でも、下請法違反の事態にならないように、取引担当者に下請事業者との価格交渉において必要な対応をするように気を付けなければなりません。

 

2 下請法とガイドライン

 いわゆる「下請法」(「下請代金支払遅延等防止法」)は、親事業者が下請事業者に対して、「買いたたき」をすることを禁止しています(下請法4条)。

 

 「下請法」の運用について、公正取引委員会がいわゆる「下請法ガイドライン」(下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準)を発表しています。令和4年1月26日に最新の改正がなされています。

 

 このガイドラインの中で、法が禁止する「買いたたき」について、

 

  • 労務費,原材料価格,エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について,価格の交渉の場において明示的に協議することなく,従来どおりに取引価格を据え置くこと。

  • 労務費,原材料価格,エネルギーコスト等のコストが上昇したため,下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず,価格転嫁をしない理由を書面,電子メール等で下請事業者に回答することなく,従来どおりに取引価格を据え置くこと。

も、違法の恐れがあることが明記されています(同ガイドライン 第4-5(2))。

 

3 実際の取引において

 以上の法とガイドラインの定めからすれば、次のようになります。

 まず、新規の契約においては、明らかな原材料価格やエネルギーコストの上昇が起こっているのならば、従来の価格から値上げする必要があるかどうかを「明示的に協議する」必要があります。

 ですので、下請事業者からは「値上げ」を求めて良いのはもちろんですし、親事業者としてもしっかり協議したことを書面やメール等で記録を残しておく必要があります。

 また、従来から引き続いている契約においても、下請事業者は必要に応じて値上げを求めるべきです。

 これに対して、親事業者は、もしそれでも価格を据え置くのであれば「価格転嫁しない理由を書面、電子メール等で」回答する必要があります。

 

4 下請法違反の場合には

 実際の取引条件を適正なものにすること自体は、当事者間で交渉して実現することになります。

 ただ、交渉しても下請法違反の状態が続く場合には、当局(公正取引委員会、中小企業庁)に対して、申告・指摘をし、調査を求めていくことが考えられます。

 調査の結果、下請法違反の事実が認められると、公正取引委員会から指導や、違反行為の是正等の勧告がなされます(さらに、親会社が勧告に従わない場合には、独占禁止法に基づく排除措置命令や課徴金納付命令が行われる場合もあります)。

 以上のような規制があるので、下請法を背景に、取引価格を適正なものにするよう交渉していくことで、改善を実現できるケースがあります。必要であれば、弁護士を代理人として交渉することも考えられます。

 

5 終わりに

 コロナ禍、ウクライナ情勢、円安などの影響が厳しいのは、親事業者としても下請事業者としても同じことですから、その負担を片方にだけ押し付けるということは公平と言えません。

 下請法は、この点での不公平を是正するルールでもありますから、どの立場にあっても、今の情勢でこそ十分に意識される必要があります。

 実際の取引では、力関係の問題もあり、判断に迷う微妙な部分等もあると思います。そのようなとき、企業としてどういう方針で臨むべきか悩む場合には、弁護士に相談いただければと思います。

以上